東京・青山の青山通りに面した国際連合大学隣の商業ビル「ラ・ポルト青山」地下1階に「@Kitchen AOYAMA」というレストランがある。40坪の空間の中にオープンキッチンを広く構成し(36席)、その中で20代後半の5人のシェフがてきぱきと働いている。料理ジャンルは地中海料理、フレンチ、イタリアン、和食・すしなど多岐に及んでいて、一つのレストランにいて、さまざまなジャンルの料理を同時に楽しむことができる。客単価はランチタイム2000円あたり、ディナータイムは6000~8000円となっている。

 

このような料理の提供方法はとてもユニークであるが、筆者が特に印象深く感じたことは、ここで働いているシェフたちの様子に「共通の志でつながっている」という発信があったことだ。「とても仲が良い」という言い方もできるが、それは日頃お互いが切磋琢磨していることによって培われている関係性ではないか、と感じた。

広いオープンキッチンでてきぱきと仕事をしている様子はショーを見ているような感覚だ

この店の業態を「シェアキッチン」と呼ぶ。一つのキッチンを複数のシェフがシェアしているからこのように名付けられている。「ゴーストレストラン」や「クラウドキッチン」と同じように、近年特にコロナ禍で隆盛している業態の一つである。

 

同店を経営しているのは株式会社WORLD(本社/東京都中央区、代表/坂めぐみ・冒頭写真)。同社代表の坂氏は2016年4月に会社を設立、シェアオフィス等のビジネスを展開していた。

インバウンド対策を補うシェアキッチンに挑む

当時はインバウンドの訪日外国人客が急増傾向にあったことから、坂氏は浅草で飲食業を営みながらインバウンド向けの分野に取り組みたいと考えていた。そして2019年11月吾妻橋のたもとに「体験Dining 和色 -WASHOKU-」をオープン。ビルの最上階5階のフロアと6階がテラス席という構成で、隅田川を眺めながら食事ができる店である。

 

この店には二つのコンセプトを設けた。

一つは、日本の地方と世界をつなぐ場所の創造。外国人観光客に日本食を通じて日本の地方の素晴らしさをPRし、地方に外国人観光客を届けるハブとなることであった。店名を「和色」としているのはメニューを〝色で楽しむ和食″としているからだ。管理栄養士監修による、フォトジェニックでカジュアルな和食を今も提供している。

 

もう一つは、日本文化を体験できる「体験型飲食店」。主として外国人観光客に向けて、人力車と提携し、レンタルで和装を楽しみ、江戸切子の工房でお猪口をつくり、お店に帰ってきてから、そのお猪口で乾杯して和食を楽しむ――このようなプランを組み立てた。

 

しかしながら、翌年に入りコロナ禍となった。4月緊急事態宣言が発令され海外からの予約はすべてキャンセルとなった。

 

そこで、店舗を生かした新しい取り組みを行おうと考え、シェアキッチンに取り組むことにした。キッチンをシェアするのは、まず自社の「和色」、これに2店舗を募集してイタリアンとフレンチに入ってもらった。5月からこの形態で営業したところ売上は順調に伸びて行き、8月に営業開始以来最高の売上を達成した。これが今日の「@Kitchen」へとまとまっていく。坂氏はこう語る。

 

「@Kitchenのコンセプトは『専門店が集まる大人のフードコート』。一つのレストラン空間の中にさまざまな専門店の出店者がいることで、お客様はさまざまな食事を楽しむことができます。一般的なフードコートは大きな商業施設の中にあり、チェーン店が出店していて顧客のメインはファミリーです。@Kitchenの場合は町中にあり、デートや女子会で使えるようなフードコートです」

現在「@Kitchen AOYAMA」に出店している5人のシェフたち

料理への志が高い人に出店してもらう

三角隼人シェフの「マグレ鴨のロースト 季節野菜とオレンジ風味のソース」1990円

シェアキッチンに取り組むアイデアは、どのようなことからひらめいたのだろうか。坂氏はこう語る。

 

「コロナ禍で老舗のレストランが閉店するとか、飲食業界の経営環境が厳しいということが日々報道されています。オーナー様も厳しいですが、飲食店を一つ閉めると、そこで働いているスタッフ、シェフたちも世の中に放り出されてしまいます」

 

「有名店で働いてきたシェフは実力があり、将来独立して店を持ちたいという志もあります。このようなビジョンを持ってチャレンジしていたシェフたちが、コロナ禍という状況には関係なくチャレンジできるようなフィールドを当社でつくろう。それがシェアキッチンとなりました」

 

清野桂太シェフの「Familiarの特製カツサンド」1280円

出店者は、同社の問い合わせフォーム、料理人の人材派遣会社からの紹介、既存のシェフの紹介といった3つのパターンで出店する。初期費用ゼロ、固定費ゼロで、出店手数料が売上の歩合となる。この仕組みによって資本がなくても出店が可能で、営業を継続することができる環境となっている。

 

現在の出店者は年齢が20代半ばから30代前半の若いシェフたちである。「初期費用が安いので出店したい」というきっかけがそこにあっても、単純に動機がそれだけの人はお断りをしている。だから、しっかりと面接を重ねている。

 

面接で重視しているポイントは、料理のジャンルを問わず、そのシェフが「料理を通してどのようなことを実現したいか」という人生感。このようにして選ばれた出店者全員の価値観が共通しているからこそ、ひたむきでかつ温もりを感じさせるレストラン空間となっているのだろう。

 

桐山淑雅シェフの「ブッラータチーズと生ハム 野菜のルッコラ」1500円

また、同社では「独立サポートプログラム」を用意していて、店のアイドルタイムを活用し、税理士による個人事業主の確定申告講座や、サービスのトレーナーによるホスピタリティ研修を行うなど、料理人として料理以外に必要なノウハウを伝える機会も設けている。

 

1号店の「和色」以降は、2号店を吾妻橋に、3号店は期間限定で出店。4号店が冒頭で述べた青山の地下、5号店は同じビルの1、2階「@Kitchen AOYAMA Cafe」でそれぞれ2020年11月にオープン。2021年の1月に6号店「@Kitchen AZABU」をオープンした。

飲食に関わる人々を強く結びつけるアイデア

さて、@Kitchenの店舗展開は同じパターンでの横展開を行わない方針だ。1号店は「体験Dining」というコンセプトが存在し、4号店には「フードロス」を取り入れている。

このフードロスは、同社が全国の生産者とパイプをつくり、規格外の農産物や魚介類をサブスクリプション契約(※)によって送り届けてもらっている。規格外であっても正規品と同じ価格にしている。

(※)サブスクリプション契約:個々の商品に対して費用を支払うのではなく、月額など一定期間の利用権を販売するというもの

 

この仕組みに着眼したのは、青山に出店することになったことがきっかけとなっている。坂氏はこう語る。

 

譜久原太輝シェフの「ブラダードのクロケット 自家製タルタルソース」850円

「青山で食事をする人は、価格で食事をする人ではありません。食事をすることに、社会性、SDGs、エシカル消費(※)といった『イミ』を感じている人たちです。食べることでシェフの応援やフードロスの貢献につながる。このような食を通して社会課題を解決していくという喜びを味わうことができる飲食店にしたいと考えました」

(※)エシカル消費:社会的課題を考慮して作られた商品の消費活動のこと

 

今年1月にオープンした「@Kitchen AZABU」はテイクアウトとデリバリー専門のクラウドキッチンで、2つの法人が出店している。@Kitchenの初期投資ゼロ、固定費ゼロというスキームは法人の飲食事業者にとってもリスクを抑えた事業展開として注目されていくことであろう。

 

橋本竣汰シェフの「握り10種」2500円

ちなみに同店の場合、出店している法人のブランドは「Uber Eatsの口コミ評価が4.8以上」「1カ月のオーダー件数が500以上」に限定。路面店で外からキッチンの様子が見渡せるようになっていて、「人気ブランドを集めたクラウドキッチンのモデル」をコンセプトとしている。

 

飲食業の志の高い若者を集め、生産者と顧客をつなぐ「イミ」のある場所を創造し、二つとない飲食の拠点を展開していく同社@Kitchen の姿勢には、飲食に関わるすべての人々を引き付けて、これらのマインドを強く結びつける力を感じられる。

 

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店舗情報

店舗名 @Kitchen AOYAMA
エリア 青山
URL https://atkitchen.tokyo/

運営企業情報

企業名 株式会社WORLD
URL https://world-company.jp/