生産者の高齢化が進み、国内の生産者の減少が危惧されている日本。その要因の一つは生産者の持続可能性(サステナビリティ)にあります。日本社会において、生産者の持続可能性を実現することは急務な課題です。実は、生産者や食材のサステナビリティを1999年の創業当時から意識している飲食企業があります。六本木など東京を中心に店舗展開し、熟成肉や塊肉を始めとして肉業界のブームを作ってきた「格之進」を運営する株式会社門崎です。

同社は生産者や食材のサステナビリティだけでなく、女性や外国人を積極的に雇用してもいます。これらは2015年に国連で採択されたSDGs(※1)達成に貢献するだけでなく、日本の未来が持続可能な社会となる取り組みです。同社が行う取り組みに関して、代表取締役 千葉祐士氏にお話をお伺いしました。

(※1)SDGs(持続可能な開発目標)とは、貧困や飢餓、ジェンダー平等、環境問題など国際的に取り組むべき課題に関して定めた国際目標です。

―サステナビリティに関して、どのような取り組みをされているのでしょうか?

例えば、店舗がある東京・港区の子ども食堂に不定期ではありますが、当社のハンバーグを無償で提供しています。日本の子どもの7人に一人が貧困と言われていること、貧困でないけど一人で食事をする、加工食品ばかりを食べるなど、子どもをとりまく食環境が問題になっています。そこで、国産食材を使用、化学調味料などは使わない、安全な当社のハンバーグを成長中の子どもたちに食べてもらいたいと考えました。

また、女性や外国人の方を積極的に雇用してもいます。

 

子ども食堂について詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー

 

―どうして女性や外国人の方を積極的に雇用されているのですか?

社会課題のソリュシューションを求めることが企業の役割の一つであると考えているからです。当社が多く出店している六本木は、国内有数の外国人が多いエリアであり、「ダイバーシティ&インクルージョン」(※2)の重要性を感じるようになりました。

それが、SDGsの「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」や「目標10.人や国の不平等をなくす」(※3)につながったという形ですね。

外国人の方にも分け隔てなく接しています。もちろん、言語の壁などで難しいことはありますが、できることをそれぞれ明確化し、得意なことはどんどん任せて働いてもらっています。

 

また、もっと多くの方、とりわけ女性に和牛への興味を持っていただきたいと考えています。それには、女性目線の意見を取り入れる必要があると思い、女性スタッフを積極的に雇用しています。

当社では創業時から牛を一頭買いで仕入れています。一頭をさばくことは男女問わず容易ではありませんが、弊社の教育システムを通じて一人で一頭さばける女性が複数誕生しました。現在、牛の解体を学んでいる女性スタッフもいます。

 

女性の雇用に関して詳しくはこちら→SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標5.ジェンダー平等を実現しよう-

(※2)ダイバーシティ&インクルージョン:ダイバーシティは多様性、インクルージョンは受容を意味する言葉。性別や国籍などに関わらず、それぞれの個性を尊重しながら、互いに受け入れていくこと。

(※3)目標10とは、SDGsの17の目標のうちの一つ。「各国内及び各国間の不平等を是正する」というテーマの基、性別や国籍、民族、宗教などによる差別をなくすことなどが求められている。

 

―持続可能であることに関心を持ったきっかけを教えてください。

私は岩手の畜産農家で育ったのですが、牛は出荷できる状態になるまでに4年ほどかかります。どれだけこだわって育てた牛でも、感染症の流行や狂牛病など出荷時の社会状況によって売値は大幅に変動する可能性があります。自分たちの努力や技術に関係なく値段が決まってしまうのです。

その時から、価値に見合った適正な価格でお客様にアプローチしたいと考えるようになり、とりわけ生産という観点から持続可能性に関して意識するようになりました。

社会情勢や消費者のニーズに合わせて、価値にそぐわない低価格での販売を追求していると、生産者の生活も技術改革も行き詰まり、どんどん離農につながってしまいます。安さでは、広大な土地で大規模経営する輸入品に、なかなか勝つことができないからです。そのツケは私たちの次の世代が払っていくことになります。

 

―次世代がツケを払うとはどういう意味ですか?

現在、生産の持続可能性が低い、または低下していることから、国内の耕作放棄地はどんどん増えています。一度耕して生産ができる状態にしたものの、今は未使用の土地ということです。

このまま国内の生産者が減少し続ければ、食料を外国からの輸入に依存することとなり外交悪化などの際に食料供給が滞るだけでなく、今皆さんが「おいしい!」と感じる国産の農作物やお肉といった食材を未来の日本人は食べることができなくなります。生産の持続可能性を維持することは、日本の食の未来を守ることなのです。

私は、社会課題を解決していくことが企業の役割であると考えています。そのため、創業時から利益を多く出すことだけを目的とせず、社会貢献を第一に考えて運営し、当社の経営理念にこの考えを反映させています。

代表取締役 千葉祐士氏は肉への愛とその豊富な知識から「肉おじさん」とも呼ばれている

 

―経営理念をお伺いできますか?

経営理念は「私達は、仕事を通じて人間的に成長し 仲間・顧客・社会に必要とされ続け 物心共に幸せになる集まりです」です。

私たちが関わる人や、社会が幸せになるように経営していくことを表しています。この理念のもとに、「一関(※4)と東京を食で繋ぐ、岩手を世界に届ける」という経営方針、「日本の食の未来を消費者と生産者と共にクリエイトする」という事業テーマを掲げています。

利益を生むことはゴールではなく、経営理念を達成するために必要な経費という認識です。社会課題のソリューションを追求し、幸せを届けるためのコストなのです。

(※4)岩手県一関市。千葉氏の地元。

 

―生産の持続可能性に関する取り組みについても伺えますか?

例えば、牛の一頭買いです。

生産の持続可能性を維持するために創業時から一頭買いしているのですが、当時は一般的にお肉といえばカルビとハラミのみで、他の部位の認知度は低く、提供する飲食店はほとんどありませんでした。そのため、他の部位が無駄になってしまうことも少なくなく、生産の持続性の低下につながっていました。

当社は丸々一頭の牛を仕入れ、他の部位に価値を見出して提供を始めました。お客様の予算や好みに合わせた希少部位をコース料理に組み込むことでロスを削減したり、熟成肉や塊焼き、骨付き肉など各部位を一番おいしく食べられる調理方法を見つけたりと、さまざまな工夫をしています。どこのお店よりも早く、新たなメニューを開発・提供してきたと自負しております。

また、生産者の方には、事前に仕入れ量を把握でき、スケジュールを立てて安心して牛を育てることができるように、年単位で注文しています。地方の生産者が作る牛の価値を最大に評価してもらえるように、提供する場として東京都内を選んでいます。

生産者が牛を育て続けられるように配慮して運営を行っている

 

―「地方の生産者が作る牛の価値を最大に評価する」とはどういうことですか?

地方と都心では価値の評価にギャップがあり、都心部の方が高いという傾向にあります。

例えば、日本で一般的に売られているコーヒー豆ですが、品質のいいものは先進国に輸出されたり、たくさん収穫できたりすることから、生産地では値段がほとんどつかない、ということを聞いたことがある方も多いでしょう。

国内に当てはめると、生産地では安く売られている野菜が、東京のデパートではより高値で並んでいるということです。生産者にとっては、こだわって育てているからこそ、価値をより高く評価してもらえれば自信になりますし、仕事のやりがいを生みます。生産持続性の維持につながりますよね。

そのため、岩手県産の牛肉を、より価値を高く評価してくれる東京の店舗にて提供しているのです。

岩手県一関市にある廃校になった小学校をリノベーションした本社。地域の活性化にも貢献している

―持続性への関心は以前からあったとのことですが、SDGsを認識されたのはいつ頃ですか?

2015年に採択された比較的すぐ後、2016年か2017年頃だったと記憶しています。

正直言うと、「何を今さら」という印象でした。当社では、関わる人、社会の幸せのために社会課題のソリューションを追求していたため、それ以前からSDGsで述べているようなことに配慮して運営を行っていました。SDGsを知ったからといって何かを変化させたということは、あまりありませんでした。

 

―今後はどのように展開を進めるご予定ですか?

SDGsにも「目標17.パートナーシップで目標を達成しよう」(※5)とあるように、他企業などとも連携しながら展開を進めていきます。

2021年にはチーズタルトを販売する株式会社BAKEのグループ会社「つむぎ」とのコラボ店「出会っちゃったよ、肉おじさん! 」を神奈川と静岡に2店舗出店しました。ハンバーグとパイを掛け合わせた「パイバーグ」などを提供する店舗です。

これまでも株式会社セブン‐イレブン・ジャパンと共同で商品を企画・開発したり、日本サブウェイ合同会社のサンドイッチの具材の一つとして弊社のハンバーグを期間限定メニューに加えてもらったり、大企業とのコラボレーションを行ってきました。

これらの企業は「社会の課題を解決し、SDGs達成に貢献していく」という当社の考え方に賛同してくれて、コラボが実現しました。今後も他企業と協力しながら、世の中に幸せをつくるために社会課題を解決し続けていきます。

 

(※5)目標17とは「持続可能な開発のための実施手段強化しグローバル・パートナーシップを活性化する」というテーマの基、先進国や開発途上国、政府、企業、技術者などさまざまな国・機関・人が協力し合い、持続可能な開発を進めていくことが定められています。

 

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